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第7章  アキレスと亀のパラドックスにおける真の解法

第4

アキレスと亀のパラドックスとは何か

 

 前回で説明させていただいた四つのパラドックスの中で、まず最初はアキレスと亀のパラドックスから取り上げていきたいと思います。この問題を解くと、そこから自然に分割のパラドックスも飛矢のパラドックスも解けるようになるのです。ですから、まず徹底的にアキレスと亀のパラドックスについて考えていきたいと思います。

 さて、アキレスと亀のパラドックスとはどういうパラドックスだったでしょうか。もう一度、問題の内容をじっくりと考えてみたいと思います。

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 右の図を見てください。アキレスと亀が競争することになりました。アキレスは伝説に残るような俊足の持ち主です。まともに競争したのでは、亀が負けるに決まっています。

 そこで、亀はアキレスにハンディをほしいと頼むと、アキレスもやる前から結果のわかっているようなことはしたくないと言って、亀の申し出を快く引き受けました。

 そのときです。亀が突然、「これで負けないぞ」と叫んだのです。

 アキレスは驚いて亀に言いました。「いくらハンディをつけても私が亀に負けるはずがない」

 亀がアキレスにこんなふうに説明をはじめました。

「アキレス君、きみがボクを抜くには、まずボクがスタートした地点までこなくてはならないだろう。そして、そこまで来るのには時間がかかっている。ここまではいいかね」

 アキレスはそんなことは分かりきっているという顔をして返事もしません。

「アキレス君、わかってるよね。きみがボクのスタート地点にくるまでの間、ボクだって前に進んでいる。いいね」

「しつこいなあ。そんなことはあたりまえじゃないか」とアキレスは呆れたように言いました。

「いいんだね。アキレス君がボクのスタート地点まできたとしよう。そのとき、ボクはきみより先にいる。アキレス君はそのとき、またもボクのいる地点までこない限りはボクをぬくことはできないんだ」

「それがどうしたんだ。勝手なことを言っているがいいさ。私がカメに負けるわけがない」とアキレスはまだ自身満々です。

カメはにやにやしながらアキレスに言います。「きみも案外、お人よしなんだね。いいかい。きみがボクのスタート地点まできたら、今度は、そのときボクがいた地点までこなくっちゃボクを抜けないんだ。そして、これはどこまでもつづくから、アキレス君はボクを抜けないんだ」

 アキレスはきょとんとしています。「ちょっと待てよ。今度は図をつかって説明してくれよ」

 そういわれて、亀は地面に図を書きながら、アキレスに説明を始めました。まず下の図ようにアキレス君とボクが同時にスタートするわけだ。アキレスもうなずきます。

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 スタートしたら、アキレス君がボクを追い抜くためには、まずボクがスタートした地点までは来なくてはいけないだろう。アキレスも「そうだな」とあたりまえのような顔をして応じます。そのときボクは当然、アキレス君より少し前にいるはずだね。それが下の図の亀の到達点1なんだ。アキレスは「君でも一応、進むんだからね」と皮肉そうにうなずきます。亀はアキレスの皮肉など意に介しません。うれしそうに話します。「次に、アキレス君がボクを追い抜くためには、君は亀の到達点1までは来なくてはいけないはずだね」アキレスはまだあたりまえそうな顔をしてうなずいています。

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 亀がにこにこしながら話しつづけます。「ここまではいいね。さてと、次にアキレス君が下の図のアキレスの到達点2に来たら、そのときボクは亀の到達点2にいるはずだ。いいね」アキレスもそろそろ事態が飲み込めてきたらしく、顔がひきつりはじめてきました。「あ、あー」亀は勝手に話しつづけます。「アキレス君がボクを追い抜くためには、今度はボクがいる亀の到達点2まで来なくっちゃならない」アキレスは顔面をひくひくさせながら、地面に書く亀の図を見つめつづけています。

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「ここまではいいね」と亀はアキレスに皮肉たっぷりに言います。アキレスは顔を真っ赤にして図を見つめていました。。「アキレス君がボクを追い抜くためには、今度はボクがいる亀の到達点3まで来なくっちゃならない」亀はおかしくてたまらないらしく、笑い始めてしまいました。アキレスは亀に負けるはずがないと思っていたのに、亀の説明を聞いて、その自信がぐらついてしまいました。アキレスがおどおどと亀に言います。「私は君を絶対に抜けないということなのか」

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 亀はアキレスのあまりの不安そうな声に笑い転げて、ひっくり返り、元に戻るのにアキレスに助けてもらわなくてはいけないほどでした。007409KAMEHANNTENN.JPG - 1,210BYTES

 アキレスはすっかり自信を失って、自分が亀を追い抜くのは絶対的に不可能なのだと思い込んでしまいました。今まで競争では誰にも負けたことのなかったアキレスです。アキレスの絶望的な顔は、見るに忍びないほどでした。

 助けおこしてもらった亀が、自分のスタート地点へと、のそのそ歩いていきながら、アキレスに元気よく声をかけました。「アキレス君、さ、スタートしよう」

 

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